芸術公社設立記念シンポジウム(2015年1月23日開催)

 芸術公社では、言葉やイメージが行き交うシステムである広報やPRについても、大きな批評性と社会性が宿る実践だと考え、取り組んでいきたいと考えています。次にお話いただくのは、平昌子さんです。平さんは、建築、現代美術、演劇、アート・フェスティバルなど、ジャンルを横断してPR活動を展開しています。

平昌子 私はパブリシストという肩書きで、PRを主な活動としております。もともとは建築を作る現場にいました。15年ほど前、建築家という職能はいまほど世間に認知されていませんでした。とても面白いジャンルであるにも関わらず、何故そういう状況になっているのだろうと思い、専門分野における魅力を伝えていこうと思って、PRの仕事を始めるようになりました。

私もご一緒していたF/Tでは「批評家inレジデンス」が実施されており、それは、フェスティバルの事業費から予算化して、主にアジア圏における若手の批評家の人を呼び、その場で観たものを批評する場を設ける、というものでした。私はこうした、フェスティバル自体が情報を発信し、言論を作っていくことに非常に感銘を受けました。

今後は、情報を伝達するというPRという立場から、情報の発信だけではなくその反響をどう受け取るのかということも含めて、仕事をしていきたいと思います。


 アートと他の分野を繋げる仕事

 続いて、もうひとりのパブリシストである、望月章宏さんにお話をうかがいます。最近は大手広告代理店もアートの分野に入ってきていると聞きます。個人や小さな組織でできることの可能性はどのようなものでしょうか?

望月章宏 普段はアート系のPRをしつつ、映像やイベントの製作など、いろいろな現場で活動をしています。私は広告代理店にもPR会社にも所属したことがないんですが、PRの仕事をするときには、彼らがどういう風にコンテンツを届けようとしているかを探ります。

私は平さんと一緒に、2年前のF/TでPRをさせていただきました。F/Tでは異常なまでに議論がされていて、その言葉を外に伝えて欲しいという要求が私たちにありました。トークイベントや「批評家inレジデンス」のように、言葉を尽くすことがフェスティバルの構造のなかに組み込まれており、プレスリリースやパンフレット、チラシの膨大さには驚きました。私は、ライター、記者、編集者が、決してメジャーなコンテンツではないものに対しても興味を持ち、問題意識を共有してくれているのを知っていたので、彼らに企画を持ちかけて、F/Tの言論を外に伝えることができたと感じています。芸術公社ではF/Tのように、考え方や言葉の使われ方を理論化し、伝えていきたいと考えています。

また、芸術公社の特徴はメンバーにアーティストがいないことです。私たちが作り出す言葉や考えが、今度はアーティストやその作品に影響を与えられるようになればいいなと思います。

 編集、執筆、PR等のほかに、行政や企業など外部との交渉に言葉が必要とされる場面があります。こうした点について芸術公社のもうひとりの理事である若林朋子さんにお話をうかがいます。

若林朋子 私は長らく企業の文化支援活動のサポートや助成金の仕組み作りの研究等をしてきました。活動を行うなかで、アートの諸課題が長年解決されないのは、アートの枠の中だけで、同じ顔触れで議論し続けているからではないかと感じるようになりました。

一昨年独立し、アート以外の分野、例えば林業の世界や若いお坊さんの社会活動、外国人労働者の子どもたちの教育の問題などを取材するようになると、それぞれに興味深い取り組みがあり、また、どこかで必ず「文化」とつながっていることに気づかされます。アートと他の領域が行き来し、交わることで生まれる何かがあると感じています。それが芸術公社における自分の役割なのかなと思っています。

 次にお話いただくのは、制作コーディネーターの戸田史子さんです。色々な作品のクリエイションに関わるなかで感じてきたことをうかがえればと思います。

戸田史子 私は演劇・アート・音楽など、それぞれの業界の狭間で働いていて、劇団やダンサー、ミュージシャンの国内外公演をコーディネートしたり、イベント制作・翻訳などの仕事しています。個々のクリエイションの質を上げたり、外界と内界のチューニングをしたりするのが私の仕事だと認識しています。

この前たまたま、とある能楽者の方の本を読んで、私が目指していることに近いなと共感しました。その方は能でいうシテじゃなくてワキの人なんです。私は、アーティストは異界に住んでいる方々だと思っていて(笑)、それを現世に降ろして伝わった時に生き甲斐を感じます。

芸術公社では主に、現場での制作や、今日のようなシンポジウムがあった際に運営の仕切りなどをやっていきます。

 最後に、私自身は翻訳を仕事にしていますが、今はもう少し広い意味での「翻訳的な実践」にも関わりたいと考えています。翻訳とは、メッセージの代弁ではなく、複数の秩序や実践の出会いをいかに記録できるか、ということです。今回のこのシンポジウムのように複数の職能が出会う場をつくることもひとつの翻訳の実践であると考えています。翻訳の概念を拡張し、翻訳の実践をより社会に開いていきたいと思っています。

相馬 アートの現場では、通常、アーティストが自分の信じる価値観を、作品を通じて体現しています。プロデュースしたり、批評したり、翻訳したりする我々のような人間は、それをいかに社会に繋ぐかを常日頃考え、実践しています。芸術公社では、普段は「繋ぎ手」の人間たちがこうやって表に出てきて、実際の経験や思考のなかから生まれてきた言葉を発していきます。

芸術公社では、私たちがこれまで話してきた理念をより多くの人と共有し、芸術と社会についての意見交換をしていきたいと思います。また、外部や他のイニシアチブ、あるいは異なる価値観を持った人たちと積極的に対話していきたいと考えています。この芸術公社の理念について一緒に考えていただき、一緒に事業を立ち上げていただける方をお待ちしています。

2015年1月23日 SHIBAURA HOUSEにて
撮影:蓮沼昌宏