シアターコモンズ’25 パンフレット
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「大地が震えている。地球のエネルギーによって。あるいは投下された爆弾の破壊エネルギーによって。今この瞬間も、震える大地で、誰かが震えている。寒さに震え、飢えに震えている。怒りに震え、悲しみに震えている。言葉にできないすべての感情に震えている。命が震えている。(…)世界は今、あちこちで裂け、炎症し、激烈な痛みに震えている。」
1年前に書いた文章から、世界は何か変わっただろうか。何も変わっていないどころか、むしろ構造的暴力はますます拡大し、停戦はおろか、殺戮や人道危機は極限まで達している*。また天変地異や気候変動がもたらす明らかな異常事態も、そういうものだと慣れてしまった感がある。明らかにおかしい、と頭では理解していても、それが異常な現実を何も書き換えていかない無力感にも慣らされてしまっている。アートの世界でも、問題の本質と正面から向き合うことを避ける傾向が空気のように漂ってはいないだろうか。コロナ禍でのトラウマを忘却した先に、世界中で起き続けている炎症に見て見ぬふりをしながら、私たちはどこに向かおうとしているのか。
眩暈しか感じられないこうした状況に対して、私はすでに1年前こう書いている。「芸術に何ができるかという自己証明の問いはほとんど意味をなさない。だが、現実的には何もなす術がない状況を受け入れながら、これらの現実を想像し続ける扉を開き続けるために、演劇・劇場の知(コモンズ)を使い続けることはできるはずだ。」今回のシアターコモンズは、この言葉に対する応答として、一年分の葛藤と試行錯誤の結果を恐る恐る共有するタイミングだと言える。
「ブレス・イン・ザ・ダーク ―平和のための呼吸―」今回のシアターコモンズの参加作家であるキュンチョメが提案する作品タイトルは、この混迷の時代に私たちが実践できる、もっと倫理的かつポジティブな態度を詩的に言い表しているように思われる。呼吸、すなわち息を吸って吐く一連の反応は、人間に限らず、あらゆる動物の営みであり、さらには植物を含むあらゆる生命にも共通する空気の交換システムだ。「息」は「生き」であり、生まれてから死ぬまで、「息」は私たちの「生き」に寄り添い続けている。だが、巨大な都市開発が進む都市空間で、あるいはAIのテクノロジーが管理社会を隙なく強化・制御する社会で、その「息/生き」自体が構造的に脅かされている。その息苦しさは私たちの声を窒息させ、目を開けば、凄惨な戦下の映像とAIで加工されたフェイクなイメージが、無差別かつフラットに網膜に映り込んでくる……。こうした過剰な視覚刺激が「息/生き」を退化させる時代に、あえて暗闇に身を置いて深い呼吸をすることで、地球と自己、自然と身体、世界と此処の関係を新たに構築することができないだろうか。それは私たちに、文字どおり安息や休息だけでなく、「息/生き」の復活をももたらすはずだ。今回、キュンチョメの提案する作品のコンセプトを全体テーマにも使わせていただくことで、「暗闇で呼吸する」という身振りをシアターコモンズ全体にも敷衍してみたい。
シアターコモンズ’25
ブレス・イン・ザ・ダーク/暗闇で呼吸する
会期 |2025年2月21日(金)- 3月2日(日)
会場 |東京都内複数会場
アーティスト |
キュンチョメ
「ブレス・イン・ザ・ダーク ―平和のための呼吸―」
ジョアナ・ハジトゥーマ&カリル・ジョレイジュ[レバノン/フランス]
「オルトシアのめくるめく物語」
メイ・リウ[中国/オランダ]
「Home Sick for Another World」
ルネ・ポレシュ[ドイツ]/小野彩加 中澤陽 スペースノットブランク
「あなたの瞳の奥を見抜きたい、人間社会にありがちな目くらましの関係」
市原佐都子/Q
「キティ」
佐藤朋子
「オバケ東京のためのインデックス 東アジア編」
主催 |シアターコモンズ実行委員会
ゲーテ・インスティトゥート東京
在日フランス大使館/アンスティチュ・フランセ日本
オランダ王国大使館
特定非営利活動法人 芸術公社
助成 |公益財団法人東京都歴史文化財団 アーツカウンシル東京【芸術文化魅力創出助成】、笹川日仏財団
会場協力|株式会社ワコールアートセンター、港区
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